2022.06.30コラム
ワインサイドストーリーVol.08 ~スペイン最高峰の白 リュルトン編
自分史上最高の白ワインを3つ挙げるとしたら?
そのうちの一つに入るワイナリーがベロンドラーデ。スペイン最高峰白ワインの一つ、いや、スペインを飛び越えて世界トップクラスに匹敵するといってもよいだろう。出所がスペインではなくフランス人の興したワイナリーというところがまたユニーク。
ボルドーのリュルトン家はいくつもの有名シャトーを構える由緒正しき名家だが、そのリュシアン・リュルトンの娘ブルジットはエアフランス航空会社の上位役職にあったディディエ・ベロンドラーデと結婚する。やがて夫妻には長男が生まれるもすぐに長男を亡くし追悼の日々を送っていたのがスペイン南部セビーリャの村という。
そうしてスペインからフランスに戻る途中に見つけた「ベルデホ」という白ぶどうに魅了され、ついにはその地でワイナリーを興した。トップキュヴェでありながら看板ワインの名前「ベロンドラーデ・イ・リュルトン」は夫妻の名前をつけている。
エチケットの鶏のマークはなぜ鶏かというと、セビーリャでは馬や鶏を飼育して過ごしていたそうでスペインでは家畜に家紋のような焼き印をする、その焼き印を「フランス」の象徴といえる「雄鶏」を目印にし、ワイナリーのロゴへと冠した。
スペインに生活しながらフランスのアイデンティティを持ち続けたのが功を奏してワインにも影響を与えていると思う。フランス人の感性でスペインのぶどうを仕込む。その味わいたるや、ブラインドで飲んだらスペインワインとわからない、おそらくフランスのブルゴーニュと言うだろうクオリティが物凄く高い。
まだ若いうちはボルドーワインの要素もあり、熟成していくとブルゴーニュのようにエレガントに変化する。まるで少女から貴婦人になったようなきれいな熟成をたどるのでどのヴィンテージもそれぞれの良さがあって魅力的なワイン。
このワインを飲める、飲ませてくれる機会があればどんな約束も後回しにして真っ先にかけつけたいほど逃してはならないワインと思う。高貴な香りと上品な味わいに時を忘れてうっとりしてしまう。
ワイナリーには、エチケットに描かれている鶏のオブジェが置かれている
ちなみに後に夫妻は離婚してしまうのだがワインの名前は変更せずに今もスペインを代表するフラッグシップワインとして現地の星付きレストランや高級店に黄色い雄鶏マークのエチケットは凛々しく存在を放っている。
この他に少量生産している白ワインとロゼワイン2種類には長女と次女のそれぞれの名前をワインにつけている。子供たちの名前をワインに冠するなんて愛がこもっている。
1994年がファーストヴィンテージでミリオン商事はその当時からのお付き合いであることも嬉しい。
25周年の時には記念パーティがワイナリーで開催され、有難く出席することができた。全てワインは看板のトップキュヴェのみ、しかもマグナムボトルをヴィンテージ違いで供されたのが思い出深い。
そして現地の星付きシェフを集めてヴィンテージにあわせた料理を1品ずつそれぞれのシェフがオリジナルで考えてくれた豪華なペアリングは見事だった。幻の共演とも言えるそのパーティにはよく見ると参加者側にはスペインを代表する著名な醸造家たちも出席していてミーハーな私は物凄く興奮していた。(笑)
25周年記念パーティ会場で
当日朝のワインの状態を見ながら自らデキャンタしてもてなしてくれる長男・ジョン
グラスもヴィンテージごとに合わせており、随所にこだわりが感じられる
実はマグナム以上のボトルもあるのだ
現在は長男のジョンに実権を移しつつ、醸造は父ディディエと醸造家のマルタと3人で樽をチェックしながらロットの選別を行う。「ジョンの名前がついたワインはなくていいの?」と冗談で聞いたことがあるが「僕は子どもの頃に書いたスケッチをラベルにつけていたからいいんだ。」と茶化していたことがある。
長男・ジョンが子どもの頃に描いたスケッチを使ったラベルデザイン
日本には海外セールス担当でもあるジョンがしばしば来日。
物腰や着ているスーツからなんとなくお坊ちゃんなのだろうなあとフランス貴族のオーラを勝手に感じていた(祖父はボルドーの超有名人ですから……)。
ディナーの前にはホテルに帰ってシャワーを済ませ必ず正装に着替えてくるという彼のスタイルもさすがだ。
そのお坊ちゃんらしい微笑ましいエピソード?ジョンはいつも日本で老舗の有名ホテルに滞在する。ある時コーヒーの話になってジョンが「そういえば日本のコーヒーは高いね」というので「そうかな?チェーンのコーヒーショップでサイズにもよるけど2、3ユーロだからそこまで高いかな」と答えたら、ジョンはびっくりした顔で「え、そうなの!?ということは僕が泊まっているホテルのコーヒーが高いのか!」と。
どうやら毎朝朝食をホテルで摂っているらしいジョン、それは日本でも指折りの格式高いホテルだからかと。
「今度から朝のジムの後は外にでてチェーンショップで朝食にするよ」それよりも毎朝ちゃんとホテルのジムに行っていることに感心する。
人懐こい笑顔のジョンは話し出すと夢中で止まらない熱い情熱の持ち主。心に残ったのが「リュルトンの名前を宣伝にはしたくない。名前より中身を見てほしい。母親の経緯はあるけどそこに頼りたくないから名前でPRしないし、周りにもしてほしくないんだ」と実に頼もしい二代目だ。
今度来日したらコーヒーショップでまた色々話を聞いてみよう。
醸造家マルタ(写真左)、父ディディエ(写真中央)、長男ジョン(写真右)
スペインの、そして世界の最高峰の白ワインをぜひご堪能ください!